ロスト・ラブ
「僕の祖父のこと、沢野さんは知ってるんだよね?」
そう尋ねてきた須藤くんに、小さく頷く。
須藤くんは、今私たちが通っているこの高校の理事長のお孫さんだと、前に颯太から聞いた。
「颯太とはね、中3の冬にうちの高校で初めて会ったんだ。颯太は受験の下見だって言ってた」
私の知らない、颯太の話。
中3の冬といったら、私はようやく気持ちを切り替えようと少し前を向き始めたときだ。
「初めて会った颯太の第一声なんだと思う?『お前が理事長の孫か』だよ。感じ悪すぎない?」
クスクスと、須藤くんは昔を懐かしむように笑う。
どうやら彼は、この時にはすでに一部の先生たちから正体が知られていたらしく、たまたまそれを颯太が聞いてしまったらしい。
「どうせ裏口入学だなんだ言われるんだろうなって思ってたんだ。同じ中学の奴らには散々言われてたから」
けど颯太は違った、と須藤くんは続けて言う。
「『クラス分けを操作できんのか?』って聞いてきたんだよ。僕、拍子抜けして思わず笑っちゃってさ」
楽しそうに話してくれる颯太の話に、思わず聞き入ってしまう。