ロスト・ラブ
朝のHR前のこの時間。
まだ登校してきていない胡桃を待つ間、ひとり自分の席で本を読んでいただけなのに。
「今まで一回も私に話しかけてきたことなかったよね。……須藤くん」
「あ、やっと敬語外れたね」
ニコニコと笑う彼は、今日突然、私に話しかけてきたのだ。しかも、満面の笑顔で。
ちらっとあたりを見回すと、さっき一緒に登校したはずの颯太の姿はない。
どこかに行ってるんだろうか。
いつも颯太といるイメージだから、きっと颯太がいなくて暇で私に話しかけてきたってところなんだとは思うけど。
それにしても不自然なのが……。
「おい、薫。何やってんだよ」
「あ、おかえり颯太」
ふと、須藤くんの背後から颯太が現れた。