ロスト・ラブ


自分の机に荷物を置くこともなく、そのまま私と須藤くんの間に入るように私の机の前に立つ。


守るように私を背にして、そのまま須藤くんの顔を見上げた。


「えっと……なにかな、篠原さん」


突然の胡桃の行動に驚いた様子の彼は、やや目を見開く。


「茜ちゃんに挨拶するときは、ちゃんと胡桃にもしてね」

「え?」


背中で胡桃のその表情は見えないけれど、きっと、今の胡桃はとびきりの笑顔だと思う。


胡桃なりに私を守ろうとしてくれてるのが伝わって、私は何も言わなかった。


私が1人でいる時に話しかけないでという、胡桃なりの牽制の仕方。


私が胡桃を大切にしているように、胡桃も私を大切にしてくれている。守ろうと、してくれている。



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