ロスト・ラブ
「去年はクラスにアイツがいたからな。仕返ししたくても近づけなかったし」
「あぁ、アイツな。ヤケに脅してきやがったよな」
回らなくなってきた頭で、彼らの会話はなんとか耳に入ってきた。
……アイツって、誰のことを言ってるんだろう。
それに、脅すって……?
「ほら、沢野さん。『ごめんなさい』は?」
ギュウッとつかまれた手首に力が込められて、うっすら涙さえ滲んできた。
……真っ暗な世界で、力に抗えなかったあの日の記憶が脳裏によみがえる。
───やだ。やめて……!助けて!
次の瞬間、何もかもが考えられなくなって。
「っ、は?おい……」
「え、なんかヤバくね?」
焦ったような彼らの声に、全身の力が抜けたのがわかった。
視界がぼやけて、ゆっくりと景色が傾いてゆく。