ロスト・ラブ
床に叩きつけられるんだろうな、なんて、真っ白になりつつある思考の中で思ったのに、その衝撃は来なかった。
それどころか、なんだか優しいぬくもりに包まれているような感覚に陥って、そのまま意識が遠のく。
「や、柳……!なんでここに……っ!」
彼らの焦った声が聞こえた気がした。
「……お前ら、あのとき俺が言ったこと、忘れたんじゃねぇだろうな?」
「そ、それはっ」
震えて硬直していたはずの体は、そのぬくもりと、同時に耳に届いたよく知っている声によって解けていく。
「もう二度と、コイツに近づくな。……次はないぞ」
それは男の人特有の低音なのに、その声だけは不思議と怖いとは思わなかった。
「───あかね、茜っ、」
名前を呼ばれた気がした。
暖かくて、それでいてなんだか懐かしい気さえして。
「───……ごめんな」
そこで私は、完全に意識を手放した。