ロスト・ラブ
「うん、よかった。顔色は元に戻っているわね」
その言葉を聞く限り、ここに来た時の私の顔色は相当悪かったのだろう。
………。
いま思い出しただけでも、心臓は嫌な音を立てる。
新学期のあの日。胡桃にちょっかいをかけてきたクラスメイトの男子に顎を持ち上げられたあのときとは、まるで違う嫌悪感。恐怖。
手を掴まれてしまっては、なにも抵抗できない。
あの手首を掴まれる感覚だけは、もう一生忘れることはできない。
「どうする?沢野さん。親御さんに連絡する?」
先生が心配そうにそう提案してくれたけれど、考える間もなく私は首を横に振った。
お母さんに心配をかけるのだけは、絶対にしたくない。