ロスト・ラブ



「だ、だめ……っ!」


直後、一歩遅れた胡桃の手が、私から彼の手を離してくれる。



……あぁ、また胡桃を守れなかった。守ってもらっちゃった。


「茜ちゃんに触らないで!」


泣きそうな顔をして叫ぶ胡桃に、男子生徒は血相を変える。そして、逃げるようにその場を去っていくのが横目で見えた。


……体が、動かない。



「やっぱ怖ぇ、沢野さん」

「胡桃ちゃんは優しいな〜。あんなに泣きそうになってまで沢野さんを守るなんて」

「てか、あの2人デキてるって噂あるよな。マジだったりして」


関係ない人たちの声が聞こえる。いつのまにかクラスの人たちから注目を浴びていたらしい。


けど、何を言われているのかはわからなかった。……理解する力すら、もう残っていなかった。




「茜ちゃん、茜ちゃんっ」


目の前で、胡桃が今にも泣きそうな顔をしている。




……そんな顔しないで、胡桃。


そう言って安心させたいのに、震えて声が出せない。


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