ロスト・ラブ
仮に、本当に、もしも。颯太が私の恐怖症を知っているとして。
なんで知ってるの、とか。どこまで知ってるの、とか。そんなこと怖くて聞けるはずがない。
胡桃でさえ詳細は知らない。家族しか、全部を知らない。
颯太に"あの日"のことを知られるだなんて、死んでも嫌だ。
……颯太にだけは、知られたくない。絶対に、絶対に。
「とにかく、もう男に喧嘩売るなよ。男が本気出したら、……女の力じゃ勝てない」
「……っ」
颯太のその言葉が少し遠慮がちに発せられたのは気のせいだろうか。
私は声には出さず、コクンとだけ頷いた。
そんなの、わかってる。
男の人に力で勝てないことくらい、私が一番わかってる。