ロスト・ラブ
再び歩き始めた颯太は、続いて歩きだした私よりも1歩前を歩く。
その背中を見つめながら、そっと手を伸ばしてみて、引っ込めた。
この距離ですら、私は触れられないんだ。
「茜」
やっぱり前しか向いていない颯太が、ふと私の名前を呼んだ。
名前を呼ばれただけなのに、心臓がドキッと高鳴る。
あぁ、ほんと、だめ。
「俺のこと、……いか?」
「え?」
瞬間、ビュッと強い風が吹いて、耳がその風の音の方を捉えてしまった。
「ごめん、風が」
「……いや」
颯太が前を向いていることもあって、風が吹いている中じゃ上手く聞き取れない。