ロスト・ラブ


そろそろ、本気で帰らないと。


重い腰を持ち上げて、公園を出ようとした、その時だった。


「ねぇねぇ、お嬢ちゃん」


暗くなり始めた公園の中で、知らない男の人に話しかけられたのは。


一瞬ビクッと肩が跳ねて、ひやりと汗が伝う。


「な、なんですか……?」


恐る恐る返事をしてみると、思いのほかその人はニコリと笑った。


「ここの駅まで行きたいんだけど、行き方知らない?」

「え?……あ、道ですか」


まさかの道を尋ねられただけのことに、ホッと肩を撫でおろす。


そうだよね。こんな中学生の私が何かされるわけないよね。


一瞬疑ってしまったことに心の中で謝りながら、その人が手にしていた地図を確認しようと1歩近づいた……その一瞬だった。


< 93 / 285 >

この作品をシェア

pagetop