恋かもしれない
あのとき名刺をくれた謎だけは残っているけれど、松崎さんとの繋がりは、スウェーデン語の勉強だけだ。

「でも奈っちゃん、二時間だけでそんなに焼けたのか~。色白だから日に弱そうだよね。もう痛くないの? 日焼けの薬あるわよ。使う?」

美也子さんは、私の腕をしげしげと見ている。確かに、肌はまだ少し赤い。

「あ、薬は塗ったので平気です。ありがとうございます」

普段露出してない二の腕が一番酷くて、でも松崎さんがお医者さんに聞いて買ってきてくれただけあって、あの薬はとてもよく効いた。

当日の夜お風呂に入った時にはもう全然痛くなかったのだから、流石お医者さんのオススメ品だと感心してしまう。

『覚えておいてください』

あの時のことを思い出すたび、何故だか心臓がきゅっとなって体がふわあっとなる。

それに、『いつでも駆け付けてきます』だなんて、松崎さんは誰に対してもあんなことを言うのだろうか。

というか、男性ってみんな、あんな風に力強く触れてきたりするのだろうか。

岩田さんも、そうするの?

両手で胸をギュっと押さえて俯いてると、美也子さんが私の顔を覗きこんで来た。

「奈っちゃん、どうかしたの? もしかして具合悪い?」

「い、いえ、なんでもないですっ。元気です! すみません、仕事します!」

「そう、何でもないならいいけど。じゃ、私は倉庫に行ってくるわね」

倉庫に向かっていく美也子さんの背中を見送って、私は頭の中にある二人の男性の顔を懸命に打ち消した。

そう、仕事しなくちゃ、なのだ!
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