恋かもしれない
一人また一人と減って行き、とうとうアイスブルーの子の順番がきた。

次だと思うと、ものすごく緊張して、全身が心臓になった感じがする。

落ち着いて、落ち着くのよ、私。

何を話すのか頭の中で反芻して、懸命に刻み込む。

そう。先ずは、上着を貸してくれたお礼を言うのだ。

それから、さっき聞きそびれた「オシゴトハ、ナニヲ?」を言うのだ。

お礼の言葉もあわせて、内緒の声で何度も練習していると、アイスブルーの子が立ち上がってペコリと頭を下げるのが見えた。

松崎さんがこっちを見てどうぞと呼び掛けてくれるから、心臓が頭の上まで跳ね上がる。

緊張してがくがく震える脚を叱咤して歩いていけば、松崎さんが「綾瀬さん、先程は失礼しました」と謝った。

「いいい、いえっ、そんなこと、ないですっ。あ、あのっ、これっ、ありがとうございました」

震える手で上着を差し出すと、松崎さんがにこっと笑った。

「いえ、どういたしまして。もう寒くはないですか?」

「は、はい、もう……すっかり」

「それは良かった」

上着を受け取った松崎さんが椅子をすすめてくれるから浅く腰かければ、緊張がピークに達した。

さっきまで練習していたはずの言葉が出て来ない。お礼は言えたのに。
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