恋かもしれない
『松崎です。夜遅くすみません。……ベッドに入ってましたか』

夜遅いから声を潜めているのだろうか、なんだか声が小さく聞こえる。だから私もつられて声が小さくなる。

「はい、ちょっと、寝る寸前まで、いってました」

『あ~、それはすみません。さっきまで大雨だったでしょう。帰るのを諦めてずっと会社で仕事していて、今ラインを見たところなんです。それでどうしても綾瀬さんの声が聞きたくなったんで……許してください』

「え、はい、そんな、あの、許します」

ずっと仕事していたなんて、松崎さんは今もまだ会社にいるのだろうか。

「松崎さん、忙しいんですから……それに、私の声を、ですか。それは、なんというか、その」

声が聞きたいなんて、身内にも言われたことがないことで、嬉しいようなくすぐったいような、どう答えていいか困ってしまう。

『綾瀬さんの声を聞くと、癒されるんです』

「え? 癒し効果? そんなのが、私の声に……あの、それなら、いくらでも……はい、どうぞ。ご存分に」

『あはは。綾瀬さん、意味分かってます?』

「は、意味、ですか? えーっと」

何の?と訊こうとしていたら、当の松崎さんはスマホの向こうでうーんと唸っていた。

『やっぱり分かっていませんね。そうだな……綾瀬さん、明後日の土曜空いてますか』

「土曜は、はい、何も、ないです」
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