恋かもしれない
***

『Lapin noir』のお昼時間。食後の珈琲を飲みながら窓の外をぼんやりと眺める。

昨夜の雨が嘘のように晴れた空。

濡れた庭の草花や木に日が当たって、つやつやと光っててすごく綺麗だ。

青く澄んだ空に緑のコントラストがいい感じで、爽やかだなあと思う。

「……ヤッソークナデイ、か」

「え、奈っちゃん。今〝Jag saknar dig〟って言ったの?」

「へ?」

すごくいい発音が聞こえてぱっと振り向けば、美也子さんが意外だなあと言って目を丸くしていた。

「うそ、私、今声に出していましたか?」

「出てたわよ~、しっかり。やだ奈っちゃん、無意識なの? ね、それ何処で聞いたの?」

「家です。すごく印象深くて。それって、どんな意味なんですか?」

「ヤッ・ソークナ・デイ。〝あなたに会いたい〟とか〝恋しい〟という意味」

「こ、こ、こ、恋しいぃっ?」

「そう。スウェーデンでは、会ってない友人とか、恋人に向けて言うの。わりと頻繁に使う言葉で、私もバイヤーに言うときあるし、使う人によって意味が違うの。でもそうね〝恋しい〟って、日本語にするとドキっとしちゃうわね?」

「はい……」

にこーっと笑う美也子さんに、私も曖昧な笑顔を返す。

ヤッソークナデイ、会いたい。

松崎さんも友人に向けるような、気軽な気持ちで言ったのかな……。

< 118 / 210 >

この作品をシェア

pagetop