恋かもしれない
松崎さんとの約束の日、土曜日の昼下がり。

私はキッチンでクッキーを作っている。

調理台の上にはかわいい形に型抜きされた生地が整然と並んでスタンバイしていて、小さなオーブンレンジからはなんともいえない香ばしい匂いが立ちのぼっている。

「お菓子を作るなんて、いつぶりかな」

最後に作ったのは一人暮らしを始める前だから、そう、五年以上ぶりくらいだ。

上手く出来るといいな、焦げないかなって、焼き具合が気になって、オーブンレンジから目が離せない。

上手に美味しく出来あがるようにと気持ちを込めてじーっと見つめる。

だってこれは、松崎さんに渡すつもりのものだから。

クッキーを作ってプレゼントしようと思い立ったのは昨日のこと。

松崎さんは前に『差し入れにもらった最中がすごくうまかった』なんて言っていたから、甘いものはキライじゃないはず。

最中なんて難しくてダメだけど、クッキーなら私にだってできると思ったのだ。

ピピッピピッと電子音が鳴って、オーブンレンジが焼き上がりを告げる。

「わあ、いい色に焼けてる! いい感じ!」

扉を開けば甘くて香ばしい香りが部屋中に広がって、食欲を刺激してお腹がぐうぅ~と鳴った。味見のためにも、一つつまんで食べてみる。

「あっ、あつっ、ん、熱いっ。ん~、でも美味しい~!」

ふんわりサックリしていて甘さもいい具合で、これなら松崎さんにプレゼントしても大丈夫だ。

ひとつひとつ重ならないよう並べて冷まして、新たな生地をオーブンに投入する。

男の子、女の子、星、ハート、いろんな型で抜いたこれは、ジンジャークッキーというもの。辛味と甘さがクセになる、あのクリスマスによく登場する生姜のクッキーだ。
< 119 / 210 >

この作品をシェア

pagetop