恋かもしれない
「――ああ……あの」

緊張の内に残る一ミリほどの平常心を引き出して話そうとすると、マイクを通した声が「皆さん! お静まりください!」と呼び掛けてきた。

談笑をやめた皆の視線が、マイクを持った男性に集まる。

「お話が弾む中まことに残念ですが、終了のお時間が近付いて参りました。今から係りがお配りする紙に、御自分のお名前と各々気になるお相手をお書きの上、こちらの箱にお願い致します。男性は青、女性は赤に―――」

もろもろの説明が終わると、静かだった部屋の中が再びざわめき始める。

そっか……もう、終わりなんだ。私、何もできてない。

「綾瀬さん、お話できなくて、すみません」

悪びれる松崎さんに、しどろもどろになりながらも、残念なことを伝えて、係りが配る紙と鉛筆を受け取ってその場を離れた。

今夜、カップルになれる可能性は、どう考えても、ゼロだ。

ため息を吐きつつ松崎さんの名前を書いて箱に入れたら、間もなくして、マイクを通した声が男女一名ずつの名前を読み上げ始めた。

歓声と拍手を浴びながら前に進み出るのは、カップルになった人たち。

嬉しそうに笑みながら手を繋いだりしている。
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