恋かもしれない
ちらっと隣を見ると運転中の松崎さんの横顔はすごく真剣で、ハンドルに伸びる腕は少しだけ日焼けしていて血管が浮き出ていて、すごく男らしい。

松崎さん力強いから、やっぱり日頃から鍛えているんだろうか。

腕立て伏せ何回できるんだろうなんて、ちょっぴり変なことを考えながらこっそり見ていると、綾瀬さん?と声を掛けられた。

車は信号待ちをしていて、松崎さんが私を見ている。

笑ってなくて、なんだかとっても真面目な顔をしていて戸惑ってしまう。

「は、はい?」

「今日は強引に誘ってすみません。今更ですが、迷惑ではありませんでしたか」

「あ、いいえ、そんな。迷惑では、ないです。あの、嬉しかった……っていうか、あの、その、予定ができるって、良いなって、思って、それで私」

そうだ、クッキーを渡すのは今かもしれない。

そう思って紙袋の持ち手をぐっと握って「これ」と言おうとした瞬間、松崎さんに名前を呼ばれた。

見ると、松崎さんの体がこっちに向いていて、しかも少し近づいていて、手は助手席の背もたれの方に伸びてきている。

「え、あ」

「それは、俺」

互いの言葉が重なり合ったのと同時にプッ!と後ろからクラクションが鳴らされて、松崎さんはサッと体勢を戻して車を走らせた。

今、松崎さんは何を言おうとしたのだろう。

気になりつつも問いかけられないまま話題は他へ移ってしまい、クッキーを渡すタイミングが掴めないまま車は走り、見覚えのある場所に辿り着いた。
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