恋かもしれない
「何をおっしゃるんですか! 捨てません! これは、ありがたく大事にいただきます。ありがとうございます」

ということは、一応喜んでくれたのだろうか。

渡すミッションをどうにかクリアできてホッとしてソファに座っていると、からからと氷の音をさせながら松崎さんが戻ってきた。

テーブルの上に置かれたグラスは北欧ビンテージではなく、赤地と紺地に綺麗な切子模様が入ったグラスだった。

「これ、江戸切子ですよね」

「流石綾瀬さん、よくわかりますね」

「はい、好きなんです」

北欧食器に出会う前は江戸切子が大好きだった。

とても高くて私には贅沢で、いつも眺めているだけだったけれど、お店や雑誌で見るだけで楽しかった。

「これも叔母が置いていったものなんです。聞いた話だと、東京スカイツリーのエレベーターには花火をイメージした江戸切子が一面にあるそうですよ」

「江戸切子が一面に? すごーい! 万華鏡みたいに、綺麗なんでしょうね!」

「そうですね、いつか見に行きましょうか」

「……はい」

いつか……本当に行けるといいな。

そんな期待をしてしまう。

「じゃあそろそろ、発音のおさらいしましょう。いいですか、俺の口をよく見ててください。先ずは基本中の基本、アルファベットからいきます」

「は、はいっ」

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