恋かもしれない
お勉強モードに入った松崎さんはガラッと雰囲気が変わって、怖いくらいに真剣な表情になる。だから私も集中することに務める。

「発音は英語に似てますが、全く違うものと思ってください」

松崎さんの後について、たどたどしく発音していると「もっと大きな声ではっきりと」なんてわりとスパルタなことを言う。

妥協しないところが、仕事ができる人の条件なんだろうか。

「綾瀬さん、俺をよく見て。いいですか?」

優しい声だけれど真剣な表情の松崎さんが、ぐっと近づいてくるから私も真剣になる。

松崎さんの唇と舌の動きをじっと見て真似をする。

けれど、なかなかうまくいかない。

こんなに難しいなんて、本を見ていただけじゃわからなかった。

それに人の唇をこんな風に見ている状況に慣れなさ過ぎて、ドキドキしてしまう。

だって、松崎さんの唇がどうにも艶っぽく見えてしまうのだ。

不謹慎だけどさっき見たばかりの映画のシーンの影響が大きくて、それでなくても松崎さんを直視するのは緊張してしまうのに。

息をするのも忘れるくらいに必死になって雑念を払う。

それで苦しくなってふと目を逸らすと、頬が両手に包まれてそっと正面を向かされた。

「あ、あ、あの?」

「目をそらさないで。俺を、見てください。俺だけを」
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