恋かもしれない
***

『俺を、見てください。俺だけを』

艶を含んだような、ささやき声。

大きなてのひらで頬をすっぽり包まれて動けない私に、彼の潤んだ瞳がだんだん近付いてくる。

『綾瀬さん、いい?』

──え……?

『ほら、目を、閉じて……でないと、できないだろう?』

ささやきかけてくる、色っぽい唇。

優しい瞳に見つめられると何も言えなくて、ただ見つめ返していると、松崎さんの長い指が私の瞼にそっと触れた。

誘導されるままに目を閉じていくと、柔らかな唇がそっと……。

そおぉっと――……。


遠くの方から、ピピッピピッと、高くて短い音が繰り返し聞こえてくる。

それがだんだん大きくなっていき、耳障りになってくると、目の前に迫っていた艶っぽい唇が掻き消えた。

ぱっと開いた目に、見慣れた真っ白なクロス張りの天井が映る。

カーテンの隙間から外の明るい光が漏れてきていて……。

ああこれは、そうだ。

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