恋かもしれない
「あぁ間に合った。運転手さん止めてすみません。綾瀬さん待って下さい。忘れ物です。これを、受け取ってください」
「え――? 私、忘れ物なんて、してません」
その人は、カードサイズの紙を私に差し出している。
思ってもみない事に固まっていると、ちょっと貴方乗るんですか乗らないんですかと、運転手さんが苛立ちの声を上げた。
「運転手さん、すみません。もう少し待ってください。綾瀬さん、どうか受け取ってください」
呆然としながら差し出されている紙を取ると、引きとめてすみませんと言って、その人はタクシーから離れた。
すぐさまドアが閉まり発進する。
「駅でいいんですか」
語気の荒い運転手さんに上の空でビジネスホテルの名を告げ、手の中にある紙を見つめる。
会社名と名前と走り書きされたような十一桁の数字。携帯番号付の名刺だ。
これを渡してくれたのは、名刺にもある通り、確かに松崎さん本人だった。
どうして、私にこれを? 連絡が欲しいってこと?
カップルになってないのに、どうして?
それに、こういうのはルール違反じゃないのだろうか。
さっき立ち止まって話をしていたのは、他の人にも名刺を渡していたのだろうか。
優しくて誠実そうに見えたけれど、実は軽い人なのかもしれない。
名刺を鞄のポケットに押し込み、その日は、それ以上考えるのを止めた。
「え――? 私、忘れ物なんて、してません」
その人は、カードサイズの紙を私に差し出している。
思ってもみない事に固まっていると、ちょっと貴方乗るんですか乗らないんですかと、運転手さんが苛立ちの声を上げた。
「運転手さん、すみません。もう少し待ってください。綾瀬さん、どうか受け取ってください」
呆然としながら差し出されている紙を取ると、引きとめてすみませんと言って、その人はタクシーから離れた。
すぐさまドアが閉まり発進する。
「駅でいいんですか」
語気の荒い運転手さんに上の空でビジネスホテルの名を告げ、手の中にある紙を見つめる。
会社名と名前と走り書きされたような十一桁の数字。携帯番号付の名刺だ。
これを渡してくれたのは、名刺にもある通り、確かに松崎さん本人だった。
どうして、私にこれを? 連絡が欲しいってこと?
カップルになってないのに、どうして?
それに、こういうのはルール違反じゃないのだろうか。
さっき立ち止まって話をしていたのは、他の人にも名刺を渡していたのだろうか。
優しくて誠実そうに見えたけれど、実は軽い人なのかもしれない。
名刺を鞄のポケットに押し込み、その日は、それ以上考えるのを止めた。