恋かもしれない
岩田さんのアパートから飛び出して、家に帰り着いてすぐ、鞄の中からジェルキャンドルを取り出した。

気泡のある透明なロウの中に赤い金魚があって、なかなか満足いく出来あがりだ。

「これが泳いだら、いいのにな……」

ラッピングのビニールが被ったままテーブルの上に飾ると、なんだか哀しくなってきた。

「なんだろう、この気持ち」

正体不明の感情が胸の内から溢れ出て、知らずに涙が零れてきた。

岩田さんが怖かったから? それとも別のことなの?

自分で自分の気持ちがわからない。

ひとしきり泣いて、涙がおさまった頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

ノロノロと立ち上がって電気を点け、麦茶を飲むと大分落ち着いてきた。

「なんてヒドイ顔してるの」

鏡の中の私は、メイクがはげて目も腫れてボロボロだ。

こんなときに松崎さんからビデオ通話が入っても絶対出られない。

今日の発音レッスンは断らなくちゃ。
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