恋かもしれない
安心感を与えてくれるその主を求めて横を向くと、紺色のシャツを着た松崎さんと目が合った。

「綾瀬さん、気分はどうですか」

慎重な感じで訊ねられた途端、意識を失う前の出来事が一気によみがえった。

そうだ! あれはどうなったのか!

「松崎さん、襲われてた女の人は、どうなったか、知りませんか?」

「俺が綾瀬さんのアパートに着いたときには、特に何もありませんでした。ですが、車を飛ばしてる最中、通話が繋がったままのスマホからパトカーのサイレンが聞こえてきましたから、すでに解決した後なんだと思います」

「……そう、ですか。あの、パトカーだけですか? 救急車は?」

「パトカーだけでした」

それなら、大丈夫。きっと、大事には至ってない。

「良かった」

「綾瀬さん、人の心配よりもあなたです。俺がどんなに焦ったか分かりますか? 助けての言葉を最後にスマホは天井を映したまま動かないし、どんなに呼び掛けても応答がない。スマホからサイレンが聞こえてきたときは、正直血の気が引きました」

眉間にシワを寄せて話す松崎さんの声は、穏やかだけれど怒りを感じる。

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