恋かもしれない
「し、心配かけて、すみません」

「とにかく、無事でよかった」

「全く本当にね。車を駆るのもいいけど、これからは先に救急車を呼ぶことを薦めるわよ。今回は間に合ったけれど、そうでないこともあるんだから」

入口の方から凛と透き通る感じの声が聞こえて来て、松崎さんがぱっとそっちを振り返った。

「麻里、あのときは状況がわからなくて呼べなかったんだ。それに、どんな状態でもお前ならなんとかしてくれると信じていたんだ」

「まあ、いいわ。とにかくすぐに私を思い出して電話してくれて良かったわよ。さて、彼女の診察するから、英太はちょっと離れてて。武士の情けで出てけとは言わないから、隅に行って後ろ向いてて」

ほらほら退いてと松崎さんをベッドの傍から離したのは、眼鏡をかけた若い女医さんだった。

ふたりのやり取りを聞いていると、かなり親しい関係みたいだ。

「あの、ごめんなさい先生」

「あら、やだ、ちょっと英太にお灸を据えただけだから気にしないで。男ならもっとしっかり冷静にならないとね? 先が思いやられるわよ」

微笑んでいる女医さんは、とても理知的で綺麗な人だ。

先が思いやられるって、二人はどういう関係なのだろう。

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