恋かもしれない
『発見! 娘を発見しました!』

違う! お母さんじゃない!

『やだ』

『出ていらっしゃい。もう大丈夫だから』

『やだ!』

大きな手が伸びてくる。怖い。来ないで。

『ダメだもん!』

必死に抵抗して暴れるけど、すごい力で引きずり出された。

『や、やだ、でちゃダメだもん。ダメなんだもん! おかあさんは? やだ! おかあさん、どこ!? おかあさん!!』

****

「母はお腹を刺されていたんですけど、なんとか一命を取り留めました。でも、父は自らの首を刺して息絶えていたそうです。それからなんです。怒鳴り声とドンドンと何かを叩く音が聞こえるだけで、怖くて、呼吸ができなくなって。それで男の人自体が苦手になって、担任の先生でも同級生でもうまく喋れなくなって、それでからかわれたりいじめられたりして、余計怖くなって。女子校に進んで、なるべく男の人とかかわらないようにしてきました」

華やかな同級生の女子たちを横目に、ずっとひっそり目立たないようにしてきた。普通であることが羨ましくて、何度も泣いた。

「今もカウンセリングを受けているんですか?」

北本先生の質問に首を横に振ってこたえる。

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