恋かもしれない
「男の人も怖くなくなって、二十歳になって、ある言葉を目にしたのをきっかけに、一人暮らしを始めたんです。母は再婚していましたから、私が家から出ても一人じゃないし。強くなりたくて。自分を変えたくて」

「その言葉は、何かでもらったんですか? カウンセリング?」

「雑誌です。『自分で自分を縛ってはいけない。自分が何者であるかわかるのはもっとずっと先の、人生最後の瞬間。今は大いに迷い悩みながら一生懸命生きよう』って。ハッとしたんです。私は、自分をこうだって決め付けてるだけなのかなって。もしかして、変われるのかなって。勇気をもらいました」

そして一年が経って、一人暮らしに慣れて、少しだけ自信がついた頃、恋に憧れるようになった。

ドラマや小説みたいな、燃えるような恋に。

男の人への恐怖心が緊張感に変わっていたけれど、私にも恋ができるかなって。

そう思っていたけれど、やっぱり甘かったのかな。岩田さんが怖かったから。

「でも、全然ダメですね。ずっと弱いままで情けないです。こんなんじゃ、結婚相手も見つけられないですよね」

「そんなことないわ。綾瀬さんはとても強い人だわ。ね、英太もそう思うでしょ?」

先生が振り向いた先に、松崎さんが立っていた。

今の話を聞いて、どう思ったのだろう。
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