恋かもしれない
先に支払ってしまおうと思って、業者の人にこっそり金額を聞こうとしたら、『駄目ですよ』とそっと肩を抱き寄せられて阻まれてしまった。

岩田さんと違って、松崎さんはちっとも怖くない。

触れられるととってもドキドキするけれど、嫌だと思わないのだ。


「腕が優しいからなのかな?」

私を見つめてくれる瞳も、いつも優しくてあたたかい。

誰にでもそうなのかな。

それとも、私だけ? でも、北本先生は?

『もっとセキュリティの整ったところに引っ越した方がいいです』

ガラス業者の人が去って二人きりになると、松崎さんは強く転居を薦めてきた。

あんなことが起こったから私もそうしたいけれど、でもそういうところは家賃も高いし、第一引っ越し費用が捻出できない。

このアパートは、今のお給料で生活して少しだけ余裕のあるギリギリのラインなのだ。

『俺はあなたが心配なんです』

出勤していく松崎さんを玄関で見送る時、優しく、でもしっかりと手を握られた。

そのとき、この手を離してほしくない、そう思ってしまった。

松崎さんのことを考えると、胸が締め付けられる。

こんな気持ちになるのは、松崎さんにだけ……。

胸をぎゅっと押さえていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。
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