恋かもしれない
「誰かな? まさか、松崎さん?」

スコープを覗くと、女の人が立っていた。

「はい、どなたですか?」

「私、下の部屋の香川です」

下の部屋の人、ってまさか日曜事件の!?

ドアを開けると、香川さんはぺこりと頭を下げた。

「すみません、日曜はお騒がせしました。遅くなりましたけど、これ、お詫びです」

アパートの皆さんにお配りしているんですと言って、お煎餅屋さんの紙袋を差し出した。

肩までの髪がゆるくカールしていて、ぱっちりとした目が印象的なとても可愛い人だ。

見た感じ怪我もしていないようだし、大丈夫そう。

「あの、一体何があったんですか? あ、言いたくなければ、話さなくてもいいですけど。気になったものですから」

「別れ話がこじれちゃったんです。彼、普段はおとなしいんですけど、お酒を飲むと狂暴になるって言うか、酒癖が悪くて。それが嫌で、別れ話を切り出したんです。酒を飲むのを止めてくれるかなって、少し期待していたんです。そしたら、あんな風になっちゃって。今度こそ本当に愛想が尽きました」

彼は警察でこってり油をしぼられて反省して、二度と香川さんには近付かないと弁護士立会いの元で誓約書を書いたという。
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