恋かもしれない
「ありがとうございました」

またご連絡ください!と笑顔で会釈する佐藤さんに曖昧な笑顔を返し、外に出る。

「やっぱり聞かなければ良かったな」

ふわふわとした夢の中から一気に現実に引きもどされた気分だ。

そうだ、松崎さんは素敵な人がいるって言っていたじゃない。

きっと、退会理由はその人なんだ。

肌に触れる少し乾いた風に、秋の気配を感じる。

空を見上げれば、厚みの薄い雲が浮かんでいた。

時が経つのが早い。松崎さんと出会った季節が、もう終わろうとしている。

初恋は実らない。

どこで聞いたのか、いつ知ったのか、もう覚えていないけれど、世間一般ではこれが常識で、それはやっぱり私にもあてはまることだ。

松崎さんには好きな人がいる。それだけは、はっきりしている。

それにLサポートを退会したのだから、もうお付き合いしているのに違いないと思う。

それなのに……忙しい身なのに、どうして毎日私にラインをくれるの? 

例の事件があったから、心配していることは分かっている。

でも、引き金となることはそれほど頻繁に起こるわけじゃないって、説明したから分かっているはず。

じゃあ、スウェーデン語を教えるため。それだけ? 

松崎さんがわからない。

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