恋かもしれない
『綾瀬さんにあんなことが起こったので、言いそびれていましたが、俺、スウェーデンに行くことになったんです』

「え……それは、いつなんですか。仕事、なんですか。もう……帰って来ないんですか」

『帰ってきますよ、行くのは暫くの間です。今の仕事が終わる来月始めに向こうに渡ります。俺の会社は外資系で、向こうで邦人のクライアントから依頼があると、こっちに通訳の要請があるんです。クライアントは、日常会話は出来るんですが、経済用語や専門用語をきちんと伝えるのは結構難しいことですから。日本人の曖昧なニュアンスを向こうに伝えるのも難しいんです』

より良い仕事をするため。そういう仕事で、今まで他に行ったことがある国はフランスとドイツだと言う。

向こうで現地スタッフとコミュニケーションを取りながら一緒にコンサルティングをするのだそうで、スウェーデン語が堪能で直近に動けるのが松崎さんしかいないらしい。

『俺としては、綾瀬さんを一人にしておくのは非常に心配なんですが。麻里に……北本先生にしっかり頼んでおきますので、何かあればすぐに連絡してください。あとでアイツの携帯番号を教えますから』

「はい、ありがとうございます」

アイツ。

そう呼ぶほどに、北本先生と親しい仲なんだ。

お互いに名前で呼び合うくらいだもの、二人は深い付き合いをしているんだ。

好きな人は、きっと北本先生に違いない。
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