恋かもしれない
来月っていったら、あと二週間くらいしかない。

これから出発までの間は、準備とか北本先生とのお別れとかで、ますます忙しくなる筈。

私に構っている暇なんて、無い。

ぎゅっと唇を噛んで悲しさを堪える。

ここで泣いたらいけないことくらい、私でも分かる。

「あ、あの。じゃあ、レッスンは、お休みにしてください」

『綾瀬さんは、それでいいんですか? 俺が向こうに行けば、時差の関係でこうして話せなくなるんですよ』

何時になく松崎さんの語気が荒く感じる。

どうしてそんな言い方をするの? 

勿論、私は嫌。嫌だって言いたい。

松崎さんとお話できなくなるのは哀しいし寂しい。

でも、これ以上好きになるのは、もっと辛い。

きっと、これがいいきっかけになる。

そして、松崎さんが帰国する頃には、きっと笑っていられる。

そう、私は強い人なのだから。

「もっと別のことに、時間を使ってほしい、です」

『……わかりました。じゃ、もうレッスンはしません。綾瀬さん、おやすみ』

「はい、今まで、本当にありがとうございました……おやすみ、なさい」

通話の切れた画面を見つめていると、頬に温かいものが伝って滴となってぽたぽたと下に落ちた。

胸が苦しいほどに痛い。

失恋って、こんなに切なくて辛いんだ。
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