恋かもしれない
「その辞典は本格的に勉強するなら良いですが、初めてならもっと手軽なものの方がいいですね。でも、ここにはないなあ……そうだ、俺が使ったので良ければ差し上げますよ」

「は? ……でも、それじゃ……」

「以前少しスウェーデンに滞在したことがあるんです。そのときに使っていたもので。ちょっと書き込んだりしてますが貰ってください。今は使わないんで、正直貰ってくれると助かります」

あの、とか、でも、とか言っているうちに、『スウェーデン語辞典』は取り上げられて棚に戻されてしまい、気付けばスマホを取り出して番号交換をしていた。

アドレス帳には、名刺にあったのと同じ十一桁の番号が載っている。

「じゃあ、また連絡します」

松崎さんは棚に置いてあった本と、床に置いてあった四角い鞄を手に持ち、スタスタとレジの方へ歩いて行った。

***

半分ぼーっとしながらアパートに帰り、買ったばかりの北欧雑貨の本をテーブルに置いて、鞄の中身を出していく。

スマホが手に触れて、書店であった出来事が鮮明に思い出されて顔がボワッと熱くなる。

男の人って、男の人って、男の人って――スゴイ。

細身なのに、逞しい腕だった。

私を軽々と受け止めてくれて、お姫様抱っこの間中も、重そうとか辛そうとかそんなこと全然なくて、優しく笑っていた。

女子と違って、力強いんだ。

背中を支えていた腕の感覚が、まだ残っている。こんなの、生まれて初めて――。

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