恋かもしれない
「それに私、男の人と、連絡先の交換しちゃったんだよね」

今までの人生の中で三回ほど出席した合コンでも、ただの一度も連絡先を聞かれたことがない。

ただスウェーデン語の本を貰うためだけれど、これって、一歩前進したのかな。

『連絡します』って、もちろん電話だよね。いつ、かかって来るんだろうか。

出来れば心の準備している今とか、明日とか、早めがいいのだけれど、松崎さんの都合があるだろうし。

でもまさかあんなところで会うなんて、信じられない。

頻繁にあの書店に来るのだろうか。

あの近くに、松崎さんの会社があるのかもしれない。

ということは、また偶然に会ったりするかも? 

それに、今までにも何度かすれ違っていたのかも――。

「あ、名刺! 手書きの数字ばかりに気を取られていたけれど、住所も書いてある筈」

キャビネットの引き出しから取り出して確認してみれば、会社の住所は確かに県内だけど遠くて、時間的にも帰宅ついでに寄ったという感じじゃない。

取引先が、この辺にあるのかな。

松崎さんは、どうしてこの名刺をくれたのだろうか。

書店では『電話くれませんでしたね』とか『名刺渡しましたよね』とか、それっぽいこと言わなかった。

もしかして、配るだけで会社の宣伝になるものなのかな。

エステとか化粧品とか女性用の品を扱っている会社なのか。

「『(株)MST 松崎英太』さん。MSTって聞いたことがないな。えっと、経営コンサルティングって、何??」

少なくとも、扱うものが女性用の商品とかけ離れていることだけは、分かる。

仕事内容をネット検索しようとした刹那、手にしたスマホのバイブがブブブブブと鳴って、体がびくっと跳ねて放り投げてしまった。

「ま、まさか、松崎さん!?」
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