恋かもしれない
放物線を描いて落ちたスマホは、ベッドの上に転がっている。

高鳴る胸を押さえつつおそるおそる覗き見た画面には、『Lサポート』の文字があった。

「なぁんだ」

ホッとしたような残念なような、複雑な気持になる。

『Lサポート』は、登録している結婚相談所の名前だ。

「はい、綾瀬です」

『もしも~し、綾瀬さん? 佐藤です~。土曜のクルージングパーティでは残念でしたねぇ』

アドバイザーの明るい声が聞こえる。用件は、次回面談日の相談だった。

私の担当である佐藤さんは五十歳くらいの女性で、男性と話すのが苦手な難しい会員である私に、とても親身になってアドバイスしてくれている。

まるで親戚のおばちゃんのような人柄と親しみやすい外見で、全国的に見ても成婚会員の成績はトップクラスらしい。

だから、〝綾瀬さんのような会員には腕が鳴ります!〟と言って笑っていた。

今も、私に合いそうな男性会員さんを見つけたからって連絡してくれたのだ。今度はどんな人なのかな。

「十六日(土)十四時から、と」

アプリに予定を入れ、夕食の準備を始める。

その日は、それきりスマホが着信を告げることはなかった。

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