恋かもしれない
***

電車に乗るとすぐ、窓に水滴が当り始めた。

駅に着いた時には本格的な降りになっていて、暫くは止みそうにない。

構内にいるほとんどの人が空を見上げて唸っていた。

遠くの方で雷が鳴っているのも聞こえる。

アパートまでは、駅から徒歩で三十分くらいかかる。

バスに乗って帰るにしても、バス停からは五分くらい歩くのだ。

どちらにしろ、濡れてしまう。

カフェで時間を潰したら、少しは小降りになるかな? 

どう行動するか悩んでいると、横から、奈っちゃん?と声を掛けられた。

「美也子さん!」

隣には男性が微笑んで立っている。

この方が、噂のご主人だろう。

一重の目がキリッとした顔立ちで、立ち姿がスマートな人だ。

ぼーっと見とれていると、美也子さんが私を紹介してくれた。

「橘です。綾瀬さんのお噂はかねがね聞いております。妻が大変お世話になっております」

丁寧に頭を下げて挨拶してくれる橘さんに対し、私も慌てて頭を下げる。
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