恋かもしれない
***

水曜午後三時。カーテンを閉め、全ての照明を落とした薄暗い事務所には、真剣な空気が流れる。

「ああ、奈っちゃん。もう少しリファーを右に傾けてみて」

「はい。右って、えっと、こんな感じてすか?」

美也子さんの指示で、リファーを右側に少しずつ傾けていく。

「もう少し右ね。うん、そこ。そんな感じ」

私と美也子さんは、ウェブショップに載せる商品撮影の真最中。

私が手に持っているのは撮影用照明器具のリファーというもので、机の上にはレフ板に囲まれた小さなオブジェが寝転がっている。

美也子さんは三脚に載せたデジカメの画面を睨み、私に指示を飛ばしてくる。

今撮っているのは、全長十センチほどの男の子と女の子。

裸で大きなお花を一輪抱えており、そばかす笑顔のとてもチャーミングな人形だ。

それで今ズームしているのは、人形の足の裏。

作家直筆のサインがあって、この商品においては重要な部分なのだ。

「はい、OK! いいわよー」

美也子さんが三度シャッター音を響かせた後、リファーを下に下ろしてリラックスに努め、次なる緊張に備える。

オブジェの場合、正面、横向き、後ろ向き、足の裏と全部で五カット撮るので結構しんどいのだ。

「はーい、お疲れ様~。奈っちゃん、ありがとう!」

< 34 / 210 >

この作品をシェア

pagetop