恋かもしれない
荒川さんは、係りの人を探しに人波の中に消えていき、間もなくして、救護の腕章を付けた女性が私のところに来た。

「御気分が悪いと伺いましたが、大丈夫ですか? ベッドでお休みになられますか?」

「いいえ、あの、少し船酔いしたみたいで……外の空気を吸ってきます」

ご一緒致しますと心配顔の女性に、一人で大丈夫ですからと断って、出口へと歩きながら荒川さんを探してみる。

すると、既に他の女性と笑顔で話をしていた。

とぼとぼと甲板に出ると、冷たい夜風がむき出しの肌を刺して、ぶるっと震える。

昼間は初夏の気候とはいえ、夜はまだまだ冷えるのだ。

「あ~あ、またやっちゃったな……」

折角話しかけてくれたのに、会話も出来ずに終了だなんて、自分が情けなさ過ぎて哀しくなる。

男性と話そうとすると緊張してしまうこの性格のおかげで、彼氏いない歴=年齢を絶賛更新中だ。

このままじゃいけない、変わらなきゃって、出会いを求めて結婚相談所に登録して、そろそろ一年が経つ。

今までに何度かお見合いをセッティングしてもらったけれど、全部失敗して、お相手にお断りされている。

内容は『お話する気がなく、嫌われているようなので』的な理由が多い。
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