恋かもしれない
「わあ、すっごい! 綺麗!」

思わず声が上がる。トンネルのように造られた道を通って出た空間に、大きな金魚鉢があった。

暗闇の中に浮かぶそれは光りを放っており、中で泳ぐ無数の金魚たちが宝石のようにキラキラ煌いて見える。

ぼーっと見惚れていると、松崎さんが、次に行きますよ、と囁いてきた。

「は、はい」

人の流れに乗って、松崎さんとはぐれないようについて行くと、今度は、ぼんぼりのような金魚鉢が整然と並べられた空間に出た。

色とりどりの照明が美しく、ゆらゆらと泳ぐ数匹の金魚が入っている。

松崎さんと並んで手すりに掴まって見ていると、後ろから小学生くらいの子供の声がした。

「わあ! すげ~!」

「ほんとだ! 綺麗~!」

「え~、見えな~い」

どうやら、私たちのすぐ後ろに小学生の子が数人いるみたいだ。

ぱっと振り返ったら、女の子が首を伸ばして一生懸命展示を見ようとしている。

「ごめんね、見えないよね。お姉ちゃん、すぐ退くから」

場所を譲ってあげようと動いたら、名前を呼ばれたのと同時に手が温もりに包まれて、ぐいっと引かれた。

え?と思った時には目の前に松崎さんの胸があって、しかもすっぽりと腕の中に入れられていた。

「暗くて人も多い中で、はぐれたら困ります。勝手に動かないでください」

「は……す、すみません。気を、つけます」

「さあ、行きましょうか。恐らく次あたり、俺のイチオシの展示がある筈です」

腕の中からは解放されたけれど、手を繋がれた。

ゆっくり歩く松崎さんに引かれて行った次の展示を見て、一瞬声を失う。

壁画のように大きな水槽の向こうに、庭園のような景色が広がっている。

錦鯉がゆうゆうと泳ぐ向こうの景色は、桜、紅葉、雪、次々と移り変わっていく。

まるで自分が屋敷にいて、その部屋の中から外を眺めてるような、そんな感覚に襲われる。

「すごい、素敵」

「やっぱり何度見ても素晴らしいな」

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