恋かもしれない
季節の移ろいを三度ほど眺めた後、すっと手を引かれて次の展示へと足を運ぶ。

全部見終わったときには、すっかり金魚の魅力に嵌ってしまっていた。

金魚って、あんなに神秘的な生き物なんだ。

ホールから外に出た瞬間日の眩しさに目が眩んで、夢から覚めた気分になる。

いつの間にか手は離されていて、松崎さんはスマホを手にしていた。

「ああ電話だ。ちょっと、失礼します」

松崎さんは早足で私から離れていき、人通りのないところで通話を始めた。

仕事の話なのだろうか、腰に手を当てて、たまに首を傾けたりしている。

なんだか長くなりそうな雰囲気。

仕事はひと段落ついたって言っていたけれど、休日でもかかってくるなんて、やっぱりお休みが少なそうだ。

待っている間、出入りする人の流れをぼんやり見ていると、すみませんと声をかけられた。

「これ、落としましたよ」

「え?」

声がした方を見れば若い男性が二人いて、女性もののハンカチを私に見せている。

「あなたのですよね?」

「は、あ、あの、いえ、ちがい、ます」

「あれ? おかしいな。あなたが落としたのを見たんだけど、本当に違う?」

「一度鞄の中確認してみてよ」

違うと言ったのに、しつこい。

否定の仕草をしながら逃げるように後退りをすれば、ジリと間を詰めてくる。

二人とも笑顔だけれどガッチリとした体格で、圧迫感が増す。
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