恋かもしれない
──やだ、怖い。

胸がざわざわして手も脚も震える。

どうして離れてくれないの?

「あなたのじゃないなら、友達のだな」

「一人? さっき隣にいた子はどこに行ったの? トイレ?」

二人はキョロキョロして誰かを探している。

隣って、一緒にいたのは松崎さんで、女性ものなんて持つはずがなくて。

「あ、私、来たの、友達とじゃなくて。その、人ちがいで」

混乱しながらも一生懸命説明していると、急に二人の様子が変わった。

顔を見合わせてコソコソと話したあと、パッとこっちを向く。

「あーそうだ。ゴメン、よく見たら人違いだったよ」

「そうだ、もっと背が高かったな! 悪かったね!」

じゃ!と言って、そそくさと逃げるように離れて行く。一体何だったのだろう。

「でも、良かった……」

はあぁと安堵の息を漏らせば極度の緊張がとけて、一気に脱力する。

へなへなと座り込みそうになるのを耐えると、よろけてしまう。

堪らず一歩後ろにさがると、とん、と柔らかな壁に背中がぶつかった。

「おっと、大丈夫ですか」

「あ――」

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