恋かもしれない
卵は食べられますか?と聞かれて連れて来てもらったのは、湖畔に建つ、ヨーロッパの街にあるようなお洒落な外観のレストランだった。

「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

料理を運んできた笑顔の店員が一礼をして離れていく。

テーブルの上に置かれた皿の上には、こんもりと山のように膨らんだ卵色の物体がある。

ふんわりしてまるでケーキのようだけれど、『スフレオムレツ』という料理なのだ。

スープ、サラダ、チキンステーキ、パン。

俺に任せてくださいと言って、私の好みを聞きながらオーダーしてくれたセットメニューが、真四角のテーブルの上に所狭しと並んでいる。

私のはトマトソースで、松崎さんはクリームソース。

彩りも良く、とても美味しそうだ。

「いただきます。綾瀬さんも冷めないうちに食べてください。美味しいですよ」

「は、はい、いただき、ますっ」

ぱちん!と手を合わせて言うと、松崎さんが「どうぞ」と言ってくすっと笑った。

恥ずかしくなってぎこちなく笑い返せば、微笑んだまま真っ直ぐに見つめてくる。

ぼっと熱くなった顔を隠すように俯いて、目の前にある料理に集中することに努める。

男性と向かい合って食事するのなんて初めてで、どんな顔をして、どんな食べ方をすればいいのかわからない。

『Lサポート』でのお見合いだって、テーブルの上にあるのはお茶だけだ。

何か話さなくちゃと思えども、頭の中は真っ白。

誘うはずだったカフェでどんな話をするか、自宅で何度もリハーサルしたのに、全部吹き飛んでしまっている。
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