恋かもしれない
『これでいいのよ。バイヤーもわかってるから大丈夫よ』とも言ってくれる。

でもこれじゃ、いくらなんでも失礼だろうと、いつも心苦しく思っているのだ。

まあ此方から掛けることが多くて、あちらからは滅多に掛かってこないのだけど。

「綾瀬さん、どうですか」

「はい。あの、どれがいいのか……よく、わからなくて」

どれも似たような中身で、どこが違うのかさっぱり分からない。

首を捻っていると、テーブルの上にカップが置かれた。

珈琲の芳ばしい香りを運んできたそれは、深みのあるブルーのもの。

「これ、北欧の、ビンテージのですよね」

「へえ、綾瀬さん、分かりますか」

「あ、はい。お店で、扱ってるのと、一緒で。これは、アラビアのものです」

茶色とブルーの二色使いで、北欧のだけれど、何となく日本的な感じがして落ち着くデザインのカップだ。

「そうなんですか。俺はよく知らないんですが、良いものらしいですね。これは叔母の趣味なんです。実は、この家も叔母のものなんですよ」

そう言いながら私の隣に座るから、心臓が頭の上まで跳ね上がる。

カウチソファーは一つしかなくて、松崎さんが隣に座るのは仕方なくて、紳士だって分かっているつもりで。

でも、でも、でも、でも、とっても近い!

既に端っこにいるのだけれど、少しでも離れるべく、もそもそモジモジと動いた。

< 60 / 210 >

この作品をシェア

pagetop