恋かもしれない
昨日のことをいろいろ思い出すだけで、顔が熱くなって汗が出てくる。

私、昨日、松崎さんとデートっぽいこと、したんだ。

しかも、家まで行ってしまった私は、ものすごく大胆だと思う。

松崎さんにとっては、本を渡すついでのちょっとしたことで、普通のことみたいだったけれど。

「これは、何かのグッズなの?」

「あ、そうみたいです」

これは、あのアートアクアリウムで購入できるものらしく。

昨日松崎さんの家から出る寸前、これどうぞ使ってください、といただいたのだ。

私の返事を聞かずに、本を入れた袋の中に、藤色の長細い包みを素早く入れていた。家に帰ったら開けてくださいと言って。

部屋に帰って早速見れば、包みには綺麗な鯉の絵が描かれていた。

それでドキドキしながら袋を開けて出したら、あの小さな出目金がてのひらにコロンと。

「ねえ、奈っちゃん?」

「はい?」

ボールペンをフリフリ振って見せる美也子さんの顔に「昨日のこと何も聞いてないわよ」と疑問符つきで書いてある。

そうだった。今日は朝からずっと忙しかったし、お昼時間もサンキャッチャーの話に終始していた。

服を買うのを付き合ってもらったり、いろいろ相談に乗ってもらったんだもの、報告は、義務だ。

頑張って誘おうとしていたら、逆に誘われてびっくりしたこと。

車がとっても高級そうだったこと。行った場所が素晴らしかったこと。

何が好みか結局聞き出せなかったこと。などなど、かいつまんで話していく。

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