恋かもしれない
通話を終えたスマホを置いて、再びスウェーデン語の本に意識を向け始める。

使いそうな言葉を蛍光マーカーで印していると、またスマホが鳴った。

今度は短いバイブで切れたということは、電話ではなくてメール?

「あ、違う。そっか、ラインだ」

まだ不馴れな操作で松崎さんのトークルームを開くと、『こんばんは。今何していますか』と書いてあった。

スウェーデン語の本を開いていますと返すと、わからないところはありますかと訊いてきた。

返事が返ってくるのがものすごく早い。

私が送信してすぐに吹き出しが現れるから焦ってしまう。

「松崎さんは、慣れてるんだ」

私とは違って、いろんな人とラインで繋がってるんだろうな。

今のところわからないのは発音だけど、それを尋ねるのはなんだか気が引けてしまう。

だって直接お話することになるんだもの、情けないけど、今はそんな勇気はない。

私の場合、かなり前から心構えをしておかないといけないのだ。

自分でもめんどくさい性格だと思う。

『まだありません』

『そうですか。あればまた遠慮なく訊いてください』

『はい。ありがとうございます』

『また明日 God natt いい夢を』

「へ? また明日って、明日もラインをくれるの? それに、これ、God nattって、なんだろう。やっぱりスウェーデン語っぽいけど」

わたわたと本をめくって探すと、挨拶の言葉の中に見つけた。

しかも、星空の挿し絵の隣に大きく書いてある。

God natt(グ ナット)おやすみ、か。

なんだか心がほんわりとあったかくなる言葉だ。

『おやすみなさい』

私もそう返したあと、暫くの間画面を見つめる。

既読になって、松崎さんからの返信がないことを確認して、ラインを閉じた。
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