恋かもしれない
「あ、では二人でお話をしてください。時間は一時間ほどでお願いいたします。私はあちらの席にいますので、もし何かありましたら声を掛けてください」

入口近くにある空席を指差して、唐沢さんは離れていった。

「じゃ座りましょうか。綾瀬さんは何を飲みますか?」

横のスタンドに立て掛けてあるメニューを取り出して、岩田さんは真ん中に置いて開いた。

メニューを見ながら無難なアイスティーにしようと思っていたら、岩田さんがう~んと唸りながら、真っ黒に日焼けした指でページをぺらっと捲った。

そこにはデザート類のメニューがある。

「飲みものも良いですが、パフェとかケーキセットなんかいかがですか? あ、そうだ、まだ今はモーニングの時間帯なので、飲みものを頼めばトーストとゆで卵が付いてきますよ。そっちの方がいいですね。綾瀬さんお腹空いてますか」

「は? えっと、何が、付いてくるんですか?」

「モーニングセットです。ここのマスターが愛知県の出身なんですよ。あちらだと朝の時間帯は飲みものを頼めば勝手にセットになるらしいんです。無料の場合もあるし、別途料金を支払うところもあるそうですが、ここは無料なんですよ。ちゃんと〝モーニング要りますか?〟と訊いてきますけどね」

「はあ……そう、なんですか。無料って、あ、それは、あの、とてもお得ですね」

隣のテーブルをチラッと見ると、年配の夫婦が談笑しながら卵の殻を剥いていた。あれがそうなのかもしれない。
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