恋かもしれない
「は……大きい、ですね」

編みかごの中に白いペーパーが敷いてあって、小さなゆで卵と半切りトーストが載っていた。

パンは厚さが三センチくらいあり、二か所に切れ目が入っている。

とてもふわふわでこんがりしていて、とろけたバターがしっとり中まで解け込んでいて、普通の喫茶店ならばメニューに載っていそうなレベルのトーストだ。それにサラダもついている。

改めて周りをよく見ると、見える範囲のテーブルには全部同じ編みかごがのっていた。

みんなこれを目当てに来ているみたい。

だから、大通りから外れた場所でひっそり営業していても、ここはお客さんが途切れないのかもしれない。

今のアパートに引っ越して随分経っているけれど、駅の近くにこんなところがあるなんて全然知らなかった。

見ただけで食欲をそそられて、おまけに香ばしい匂いが鼻をくすぐって朝がスペシャル早かった私はお腹がグゥ~と鳴ってしまった。

慌ててお腹を押さえたけれど、時すでに遅く。聞こえていやしないかと岩田さんをそっと見てみれば、アイスコーヒーにクリームを入れていた。

黒い液体の中を白い筋がゆっくりと広がっていく。

岩田さんがストローを差し込んでカラカラと音をたてながら混ぜている様子を見ていると、綾瀬さん、と声をかけられた。

「は、はい?」

「お仕事は雑貨店勤務とプロフィールにありましたが、今日は休みを取ったんですか?」

「い、いえ、お店は、ウエブのショップがメインなんです。土日が休み、なんです」

< 79 / 210 >

この作品をシェア

pagetop