恋かもしれない
「へえ、そうなんですか! 今風の職場なんですね。僕たち教師は夏休みがあるから羨ましいとよく言われるんですが、生徒と同じ様に休んでいるわけじゃないんですよ。部活動の指導もありますが、普段生徒がいちゃ出来ないことをしたりするんです」

例えば学校の美化とか壊れた教材の補修とか、結構いろいろあるんですよと言いながら岩田さんはトーストをかじった。

「美味いですよ!」

むしゃむしゃ豪快に食べる様子が本当に美味しそうで、私も切れ目通りに千切って口に入れた。

しっとりしていて軽い口当たり。

岩田さんの言う通りこれならいくらでも食べられそうだ。

「美味しいっ」

「でしょう。ここはランチもディナーもイケるんですよ。僕の知ってる中でも、イチオシの喫茶店です」

そういえばつい最近同じ様な台詞を聞いたな、なんて思うと同時に、松崎さんの顔が頭の中にパッと浮かんだ。

あの日のいろいろな出来事が鮮明に蘇ってしまい、胸がとくんと鳴って慌ててしまう。

顔が赤くなっていくのを感じて、それを誤魔化すように頭をペシペシ叩いてると、岩田さんがどうかしましたか?と訊いてきた。

「もしかして頭が痛いんですか? 熱中症かもしれないな」

そう言って心配そうにじっと見てくるので、ますます動転してしまう。

「熱中症だなんて、そんな。なんでも、ないですっ」

手を慌てて下ろすとテーブルの上にあった編みかごの端っこを叩いてしまった。

その衝撃で編みかごがジャンプして、中にあったトーストが弧を描いて飛んで床に落ち、かろうじて下に落ちるのを免れたゆで卵は、テーブルの上でくるくる回った。
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