恋かもしれない
さっきまで笑っていたのに、今度の表情は、ちょっと真剣な感じだ。何を考えているのだろう。

「松崎さん?」

『ああすみません。少し考え事をしてました。そうだな、綾瀬さん、今度』

真剣な感じの口調で何か言いかけるのと同時にスマホの向こうから『お待たせ!』と男性らしき声が聞こえてきて、松崎さんがぱっと横を向いた。

『おお? 何だ、松崎珍しいなぁ』

楽し気に言う声が聞こえてきて、スマホから松崎さんの顔が消えて画面が上下左右にぐらぐらと揺れ始めた。

話し声と笑い声が聞こえるけれど、擦れるような雑音が混じってしまい、内容までは分からない。

『綾瀬さんすみません。連れが戻ってきました。また連絡します』

ちょっと慌てた感じの松崎さんの顔がぱっと現れて、すぐに消えて画面が黒くなった。

通話が切れたのだと分かった途端、ふ~と肩と腕の力が抜けて、ぐたぁっとテーブルの上に突っ伏した。

スマホ越しなのにこんなに力が入っていたなんて、表情も超堅かったんじゃないだろうか。

かちんこちんに固まって、にこりともしない自分の顔を想像すると情けなくなる。

もっとリラックスできればいいのにと思うけれど、そうする方法が分からない。

「松崎さん、結局何の用事だったのかな」

言いたいことが途中で切れちゃったみたいだけど、『今度』の先は何だったのだろう。
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