恋かもしれない
ゆで卵を食べ終わった土曜の午後。外では太陽の輝きが一段と強くなり、短い命のセミたちが精一杯に求愛の鳴き声をあげ続けている。

会員登録しているお天気サイトから熱中症注意のメールが届くほどに、今日は暑い夏真っ盛りだ。

こんな日はいつもならだらだらと過ごしがちだけれど、気を引き締めてスウェーデン語の本を開く。

忙しい松崎さんの貴重な休日を棒に降ってまで頂いた本なのだ。大いに活用して勉強しなければ罰が当たる。

美也子さんには松崎さんに本を頂いたことは話しているけれど、それがスウェーデン語の本で、しかも只今絶賛勉強中だということは内緒にしている。

だからいつかペラペラと話してみせて、すっごく驚いてもらう予定なのだ。

そう思いながら先をパラパラめくってみれば、短めの例文のそばに細かい説明が書かれていて、これから文法の勉強をするのだと思うと英語の授業を思い出して、げんなりするのと同時に不安になってきた。

そういえば、日本語だってきちんと文法ができているか怪しいではないか。

頑張るって気合だけはあるけれど、分かるのかな。

本を見つめながら先を思いやっているとテーブルの上に置いてあるスマホがブルルルッと震えて、その音の大きさに驚いて体がびくっと震えた。

「はあぁもう、心臓に悪いよ」

胸を押さえて踊る心臓をなだめつつ画面を見ると、松崎さんからのラインが入っていた。

「あ! さっき言いかけて切れちゃったことかも!」

吹き出しには『今、家にいますか』とあった。
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