恋かもしれない
今日はこんな会話するの二度目だな、なんて思いながらせっせと文を作る。

毎日文字を打っているおかげで操作も大分慣れて来た。

とはいっても、松崎さんのスピードには全然負けるのだけど。

『はい、います』

『良かった。外に出て来てくれませんか』

「え、外に? って。どういうこと?」

意味もなく視線をさまよわせた後、もう一度吹き出しを見つめる。

見間違いじゃない、どう読んでも『ソトニデテキテ』と書いてある。

は! ということは、もしかして、もしかするの??

「え、や、ど、どうしよう。松崎さん、アパートの外にいるの? お仕事は終わったの? というか、どうして?」

おろおろと立ち上がって窓を開けて見るけれど、キラキラと光る屋根瓦やセミが大合唱する木があるだけで道が見えない。そりゃそうだ、玄関側に道があるのだから。

「やだ、やだ、私ってば、しっかりしなきゃ。と、とにかく外に行かないと。あ、メイク崩れているんだった、やだ、なおさないと。や、その前に返信しとかなくちゃ!」

動揺してしまい、プルプルと小刻みに揺れる指先が定まらないのを叱咤しつつ、なんとか『はい、出ます』と返事をして、わたわたとファンデとリップを塗りなおした。

「お、落ち着け、私!」

玄関を出る前に大きく深呼吸する。意を決してドアを開けて外に出ると、アパート前にある駐車場の道路側の隅っこ、線のないところに黒い車が停まっていた。

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